マンションの大規模修繕工事では、工事内容により建築確認申請の必要有無が異なります。この記事では建築確認申請の必要有無の理由と建築基準法や国土交通省における大規模修繕工事の定義の違いを含めてお伝えします。
そもそもマンションの大規模修繕工事では建築確認申請は必要なの?
マンションの大規模修繕工事は建築物の種類や修繕の内容に応じて建築確認申請を提出しなければなりません。
建築確認申請の有無が異なるのは建築基準法と国土交通省の大規模修繕工事の定義がそれぞれ異なるからです。
そもそも建築確認申請とは
工事着手前の建築確認申請は、建築基準法や、消防法などの関係法令に適合しているか確認する手続きのことです。
建設や修繕の工事の前に、自治体に必要な書類を提出し、建築主事(確認者)や関連する検査組織などに確認してもらいます。
建築確認申請が必要な建築物
建築基準法第6条において、以下の4種類の建物を建築・修繕・模様替をする場合、建築確認申請が必要となります。
第1号建築物
劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂、集会場などの建物で、その用途に供する部分の床面積の合計が200㎡を超えるもの
第2号建築物
3階建て以上の木造建築物、または延べ面積が500㎡、高さ13mもしくは軒の高さ9mを超える木造建築物
第3号建築物
2階建て以上の木造以外の建築物、または延べ面積が200㎡を超える木造以外の建築物
第4号建築物
第1〜3号に掲げる建築物以外で、都市計画区域か準都市計画区域、あるいは景観法・第74条・第1項の準景観地区内または都道府県知事が関係市町村の意見を聴いて指定する区域内における建築物(いずれも、首長が対象外とした地域は除く)
出典:建築基準法
建築、修繕、模様替の定義
建築確認申請は、先に挙げた4種類の建物を建築・修繕・模様替する場合に必要です。ここで、この3種類の施工内容の定義を確認しておきましょう。
建築
建築物を新築し、増築し、改築し、または移転すること
(建築基準法 第2条 第13号)
大規模の修繕
建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の修繕
(建築基準法 第2条 第14号)
大規模の模様替
建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替
(建築基準法 第2条 第15号)
また、建築物の主要構造部とは次の定義です。
主要構造部
壁、柱、床、はり、屋根又は階段をいい、建築物の構造上重要でない間仕切壁、間柱、付け柱、揚げ床、最下階の床、回り舞台の床、小ばり、ひさし、局部的な小階段、屋外階段その他これらに類する建築物の部分を除くもの
(建築基準法 第2条 第5号)
出典:建築基準法
一般的なマンション大規模修繕工事とは
建築基準法による定義を確認しましたが、マンションの大規模修繕工事とはどのようなものでしょうか。一般的には経年劣化による不具合を修繕して、快適に過ごせるようにする工事を「マンションの大規模修繕工事」といいます。また、規模や内容、程度の大きさから共用部分の更新工事となるのが一般的です。
具体例は以下の5つです。
・外壁:下地の補修やタイル補修、貼り替え、塗装など
・屋上:防水の補修
・共用部廊下や階段、バルコニー:床面の防水や壁塗装など
・鉄部:さび部や塗装はくり部の塗装
・設備関係:電気や給排水、消防設備関係の補修および更新
国土交通省によるマンションの大規模修繕工事の定義とは
マンションの大規模工事には、明確な定義がありません。かなり古い情報ですが、以前に国土交通省が公開した資料によれば、以下のように説明されています。
マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値を維持するために行う修繕工事や、必要に応じて建物及び設備の性能向上を図るために行う改修工事のうち、工事内容が大規模、工事費が高額、工事期間が長期間にわたるもの等をいう。
同資料によると「修繕」「改良」「改修」は次のように説明されています。
修繕
部材や設備の劣化部の修理や取替えを行い、劣化した建物又はその部分の性能・機能を実用上支障のない状態まで回復させる行為
改良
建物各部の性能・機能のグレードアップ(マンションを構成する材料や設備を新しい種類のものに取替えることや、新しい性能・機能等を付加することなど)
改修
修繕及び改良(グレードアップ)により、建築物の性能を改善する変更工事
一方で建築基準法における大規模な修繕、模様替えとは、「主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根又は階段)の一種類以上を、半分以上にわたり修繕・模様替え」することです。
なお、主要構造部はどの部分までを指すのか、たとえば屋根材の防水シートを主要構造部とみなすのか、どの工事内容までを模様替えとするのかなどは、都度現場の状況を見ながら判断されます。
マンションの大規模修繕工事は「大規模な修繕・模様替」に当てはまるの?
「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」(第2章)に挙げられている工事については、大規模の修繕、または模様替に該当するケースは少ないとされています。
一方で、同マニュアルの第3章で説明されている工事、具体的には「増築・改造等により新たな性能等を付加する改良工事」については、確認申請を行う必要があると説明されています。たとえば、以下のような工事が挙げられています。
(1)建物の面積の拡充(部屋を増やす、バルコニーの屋内化など)
(2)建物内の共用スペースの整備(空きスペースの改築、集会室の整備など)
(3)屋外共用施設の整備(集会場の整備、駐車場の整備など)
(4)耐震性の向上
(5)エレベーターの設置
建築確認申請時の留意点(既存不適格の扱い)
建築確認申請をする場合、建物の全体について建築基準関係の規定に適合しているかの審査をうけることになります。これにより、既存の建物が既存不適格(建築当時は適法でも、法令改正後に現行の建築基準関係規定に適合していないもの)になると現行法令に適合するように是正処置をする必要があります。